目 次
・風邪からの腹中痛
・不安感
・腰部脊柱管狭窄症
・過敏性腸症候群
・防己黄耆湯について
・高血圧
・アトピー性皮膚炎
・潰瘍性大腸炎
・コロナワクチン接種後の帯状疱疹
・コロナウイルス感染後の対処法
風邪からの腹中痛
(「胸中に熱有り、胃中に邪気有』』について考える」(漢方処方の解説)から引用)
【症例】
漢方をよく処方される内科医からの紹介で来店した30代の男性。
① 「かぜの症状は回復しましたが、むかむかする症状がナウゼリンやガスターでも治りません。
漢方は小柴胡湯や半夏瀉心湯でも良くならないので、何かいい薬はありませんか?」とのことでした。また、拝見すると目に付いたのはまず
② 顔の赤さです。熱い感じが続き、たまに腹痛がするとのこと。
太陽病下篇46条に「傷寒胸中に熱有り、胃中に邪気有り、腹中痛み嘔吐せんと欲する者は黄連湯之を主る」で黄連湯が考えられ、その旨を内科医に情報提供すると、後日改めて処方箋を持ってきました。それには黄連湯がエキス剤で処方されていました。翌日その方から「2回飲んだら症状が取れましたが、残り(7日分処方)も飲み続けたほうがいいですか」と電話がありました。「良く効きました」とのことでした。
「嘔吐せんと欲する者」は胸中にも胃中にも邪熱があるために自分から吐きたがる症状で、
③ 意中の寒と邪熱が争うと腹中痛となります。太陽、陽明、少陽の三陽に病があり、三陽の合病だと白虎湯ですが、
白虎湯は合病であり三陽が同時に病み、しかも陽明が中心で黄連湯は併病とは書いていませんがそれに近く、少陽が中心で太陽と陽明にも邪があり、特に太陽病下篇に記載があるところから、
④ 太陽=表とのつながりが比較的強いと考えられます。
ですから顔が赤いのでしょう。胸中にも胃中にも邪熱があり、内に鬱して表も裏も解せないので、嘔吐によりこの邪熱を出そうとしますが
腹中の寒と邪熱が争い出し、腹中痛も起き出したということです。
黄連湯と小柴胡湯は黄連と柴胡、乾姜と生姜、桂枝と黄芩の違いで、人参が1g違うだけです。黄連湯と半夏瀉心湯は桂枝と黄芩が違い、黄連が3gから1gに、人参が2gから3gになります。『方剤決定のコツ』104ページの表14に比較表が詳しく記載され、藤本肇先生が違いを解説されています。
柴胡と黄連はともに血の熱を取りますが、黄連のほうが心煩が強く、それが夜にひどくなり、虚熱であるのが特徴です。条文では1日5服昼間3服、夜2服とありますが、今回、結果的には昼間3服のみで大丈夫でした。
この黄連湯の反対の処方は何かというと、
⑤ 黄連湯=胃中の邪気+胸中の熱 小青竜湯=胃中の水気+胸中の冷え
なので、小青竜湯が黄連湯の寒熱の反対、裏の処方となります。
【解説】
① 一般にかぜは、君火の熱が㊏=(脾)(陰)を侵犯することです。(ウィルス、細菌などに基因するものは含みません)
ナウゼリン、ガスターは基本的には胃酸を抑制する薬ですが、欠点として、(脾)(陰)を破壊します。
② 顔の赤さ、たまに腹痛がある。心臓に熱がこもり、その熱が太陽小腸経の小腸において液による熱の産出がうまく働いていないことがわかります。その為、黄連により強制的に熱を取り除いたと考えられます。
③ 腹中痛は、寒と邪熱が争うのではなく、太陰脾経にダメージを及ぼし始めたことを表しています。つまり、陽明胃経である胃の(胃)(陰)に害が生じたことを表しています。三陽の合病は白虎湯とありますが、まったくの間違いです。石膏により胃熱を取り除き知母により胃陰を補うことが白虎湯の基本です。甚だしい間違いです。
④ 太陽膀胱経、太陽小腸経に関連していて、表のつながりはまったくありません。
⑤ ①~④を考察すれば、トンチンカンであることが理解できると思います。私に言わせれば「傷寒論」の真意を全く理解せず、「傷寒論」を勝手に解釈して言葉遊びをしているとしか私には思えません。
不安感
不安感~最近増えている不安感の症例2例
「漢方、効かせかた(第66回)から引用)
【症例1】
男性 56歳 175㎝ 60㎏
【主訴】職場での不安感、緊張、動悸
初診 12月某日
校長先生をしている方ですが、4月に転勤して人間関係がうまくいかなくなったり、仕事の量が増えたりしたそうです。
10月に入ると、
①不安感、緊張感、動悸、胸がザワザワするなどの症状が出始めました。
また、やたらと人目が気になります。帰宅しても、職場に対する不安感で落ち着かない。クリニックでエチゾラムを処方されましたが、2回服用しただけとのこと。服用には抵抗があったためなるべく使わないようにしましたが、服用すれば楽になります。
舌 舌苔+3 裂紋+1 胸脇苦満なし
【処方と経過】煎じ薬
柴胡桂枝乾姜湯と半夏厚朴湯を15日分処方しました。
6日目に再来店されたのですが
②漢方薬を服用し始めて、4日目と5日目に動悸と首から上の発汗、不安と緊張感でつらかったとのこと。しかしお話を聞いていると、今までもこのような症状は時々あったそうです。
こうした精神的な疾患で来店される方は、不安感がとても強く、いろいろなことに神経質になっている傾向があります。このような方に対しては、話をじっくりと丁寧に聞いて、なるべく安心させることを心がけています。
私は、「まだ服用し始めたばかりなので、心配せずに服用を続けてください」と言って帰っていただきました。その後、15日分を服用し終わり来店。様子をお聞きすると、その後は何事もなく過ごせたとのこと。同処方を15日分処方。
ちょうど正月休みに入り職場に行くこともなくなったので、毎日が元気に過ごせるようになりました。動悸や不安感もなく、気持ちも落ち着いているとのこと。
その後、冬休みも終わり通常の生活が始まりましたが、以前のようなひどい症状はなくなりました。漢方薬を服用してからは、エチゾラムを使っていません。
しばらくは同じ処方を服用して調子が良かったのですが、3月に嫌なことがあり、落ち込む日が多くなりました。
③夜中に目が覚めることが何度かあり、食欲もないとのこと。加味帰脾湯の煎じ薬15日分に処方を変更。
半月後に症状をお聞きしたところ、落ち込むこともなく夜もぐっすりと眠れているとのこと。その後も同処方を継続していますが、動悸や不安感もなく日々を過ごせているそうです。
【解説】
①この情報だけで何の判断ができるのだろうか?まったくこの患者の身体状態はわからない。最初に処方ありき?単に胃熱、湿熱のみ、裂紋があるので身体に致命的ダメージの存在?
②柴胡桂枝乾姜湯と半夏厚朴湯を服用して②のような反応が出てきて初めて心熱の滞り、又、少陽三焦経、厥陰心包経、太陰脾経に問題があると理解はできるが?
③②のことより、枯楼根により心熱が減少し、半夏、厚朴、茯苓で脾の湿が減少したことは理解でき、その結果、加味帰脾湯に変更したと考えると山梔子、牡丹皮を使用するのは間違いで、少なくとも牛蒡子、連翹、貝母などを使用しなくてはならないと私は考える。
【症例2】
④10代の高校生です。1年程前から不安感、不眠、緊張などから嘔吐するとのことで相談に見えました。初めての場所や面識のない人と会うことがあると、そうした時間が苦痛で嘔吐するとのことでした。
当日に嘔吐することもあれば、予定日の数日前から症状が出ることもあります。人と会ったり、目的地に着く前に体調不良で帰宅することもしばしばで、こうした事態に不安が増すばかりです。家族と一緒の場合は比較的良いそうですが、不安感は全くないわけではありません。こうした症状を何とか改善したいとのことでした。西洋薬には頼りたくないとのことから、クリニックへ行ったことはないとのこと。この方には、
⑤甘草瀉心湯を15日分処方しました。
15日後に症状をお聞きしたところ、吐き気はあったものの実際に吐くことはなかったとのことです。さらに同処方を15日分処方。食欲も出てきて、以前よりは食べられるようになりました。その後、同処方を30日分継続していただきましたが
⑥動悸や頭の重い感じが抜けないとのこと。また、以前は気が付かなかったけど、最近になってのどがふさがったような感じがするとのことでした。のどのつまり感を梅核気と考え、半夏厚朴湯に変方。
15日分の服用で、動悸やのどの詰まる感じが改善してきました。漢方薬の服用は継続していますが、徐々に改善。初めての場所に行ったり、初対面の人と会うような時でも、以前のように嘔吐するようなことはなく、大分リラックスできるようになりました。
【解説】
④・⑤ 第二成長期がうまく行かなくて、㊍剋㊏のさわりが生じて肝自体の免疫機能など、つまり、解毒作用の低下を招いている状態になっている。基本的に瀉心湯類は、㊍剋㊏により㊏の脾に室が滞った時に用いる処方ですが、瀉心湯類だけで根幹は改善しません。つまり、表面上の諸症状を改善するだけです。
⑥この症状がこの高校生には致命的であることがなぜ理解できないのであろうか?梅核気と考える未熟さを知ってほしい。これは厥陰心包経、少陰腎経、衝脈の滞りと分からないのでしょうか?おそらくこの高校生は、第二成長期の不完全さから、これから将来にわたってずっと不快で、原因の分からない諸症状に苦しみ、ずっと健康に問題を抱えて生きることになるでしょう。
【結論】
患者の状態を正しく把握して処方することが寛容ですが、この漢方家は、少なくとも知識が不足しています。もっと基本的な処方構成の意味を知り、もう少し生薬一つ一つの意味を勉強すべきです。
またこの漢方家は、〝証〟などで「始めに処方ありき」の考え方であると理解できますが、ある意味罪深いことです。
腰部脊柱管狭窄症
※誤った情報により、イスクラの所属する同輩が困らないために敢えて記載しました。
腰部脊柱管狭窄症事例
女性67歳/太り気味(寺の住職の奥様)
主訴:左腰・足が痛く歩行困難、3ヶ月間家事仕事ができない状態
現症状:歩けない。腰を曲げないと痛みがでる。
① 腰が抜ける感じがする。太ももから足首にかけて痛みが走る。
② 「洗濯物を干すのに手を上にあげる」「掃除機をかける」「重いものを持つ」「立っている」ことができない。お風呂に入ると少しは楽。
整形外科ではMRI検査により
③「腰部脊柱管狭窄症」と診断され、3番・4番の骨がつぶれている。手術はできないと言われた。整形外科より鎮痛剤処方あり。
服薬指導:イスクラ還元顆粒・イスクラ独歩顆粒(1日2回/各1包)、田七人参(1日3回/各10粒)、加減亀鹿二仙膏(1日2回/各1包)
【考察】
① この状態から、陽明胃経、少陽胆経、太陰脾経に何らかの問題が生じていることが考えられる。さらに、下半身が患者にとって辛いと考えられるので、太陰脾経が主であると考える。
② ここにおいて「手を上にあげる」「重いものを持つ」「立っている」ことができないことから、陽明胃経も病因があると考えられる。また、「お風呂に入ると少しは楽」とあることから、実熱つまりリウマチのような症状ではないと推測される。
① 、②、③より、主に太陰脾経、陽明胃経、さらには免疫にも影響を与えている可能性があります。つまり、(胃)(陽)が暴走し、それを太陰脾経の(脾)(陰)が抑制できない状態が長期間に及び、㊏剋㊌と剋が強くなったためと考えられる。
((脾)(陰)、(脾)(陽)が低下し始めると、㊏剋㊌と剋が起こり腎精の低下が生じる。営気の流れが悪くなる)
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服薬指導:イスクラ還元顆粒・イスクラ独歩顆粒(1日2回/各1包)、田七人参(1日3回/各10粒)、加減亀鹿二仙膏(1日2回/各1包)
【中医師のコメント】
腰部脊柱管狭窄症は50歳代から徐々に増え始め、60~70歳代に多くみられる。高齢者の10人に1人の割合で見られると言われている。
「加齢」が主な原因で、その他に「仕事による負担」「腰の病気」などにより背骨が変形することで起こる。
そのため、中医学では「補腎」が必要となり、腎臓を強め腎陰・腎陽の両方を補う「加減亀鹿二仙膏」はファーストチョイスとなっている。また、「補腎」の他に「活血」「通路」の対策もよく使われている。
お風呂に入ると楽になるため、イスクラ独歩顆粒を加える。「慢性的な痛み」のため、補腎に「理気活血化瘀」のイスクラ還元顆粒を加えると、さらに症状が早く改善される。
「激しい痛み」の緩和は鎮痛が得意な田七人参のお陰だろう。
【私の考察】
イスクラ独歩顆粒は、独活寄生湯という名の漢方薬で、構成している生薬はすべて気味が薄く、(脾)(陰)も補うが、(脾)(陽)を補う傾向が強く、どちらかというと衛気を動かして営気も動かすという考え方の漢方薬です。
逆に加減亀鹿二仙膏は、味は濃く、濁によりすべての(陰)(営気)を補う力が強いです。また亀板は㊏生㊎、㊎生㊌の流れを濁陰より良くし、ひいては営気の流れを良くする生薬ですので、陽明胃経、太陰脾経の状態を改善したと考えられます。
また、田七人参は厥陰心包経に働き、特に(脾)(陽)を活発にする生薬です。この場合、陽明胃経の(胃)(陽)が暴走したため、交感神経優位となり痛みが生じたと考えられ、田七人参を用いることにより副交感神経を動かし、暴走した交感神経を副交感神経と均衡させたために、痛みが軽減したと思われます。
これが私の解釈で、中医師とは考え方が全く違います。
どちらが正しいのでしょうか?
追記:すべての痛みは(肝)㊍が支配していますが、腰を曲げると痛みが消えることから、(肝)㊍から生じていないことがわかります。
また、還元顆粒は基本的にはいらない。
過敏性腸症候群
「漢方、効かせかた(第59回)から引用」
最近は何かと便利になっていて、OTC医薬品をネットで注文するお客さんがおられます。商品は問屋さんが当店に配送するシステムです。ある日見知らぬOTC医薬品が届きました。セイヨウハッカ油を主成分とする過敏性腸症候群のお薬です。私も恥ずかしながらこの薬を知らなかったもので、へえ~こんな薬があるんだねえ、いや良く見つけたなあと感心していました。
数日後、件のお客さんがやってきてお薬を受け取ります。やせ形で色白、口数少なく声弱く一見して「虚証」のお嬢さんでした。少し話を聞くと結構自分の症状について悩んでいるようですが、その日は過敏性腸症候群についての一般的な話に留め、漢方治療については触れませんでした。と言うのも、こういった疾患の場合、すでに病院などで漢方薬を服用していることが多いですし、会話の端々から“神経質”そうだなあと感じたからです。逆に不安をあおってもいけませんしね。
1週間後、再び来局され「この薬(OTC)は全く効果が無かった。」と困り顔で言います。それならば、とこちらから色々聞きだしてみたわけです。
① ご存じの通り過敏性腸症候群は比較的長期にわたって腹痛、腹満、便秘、下痢などの症状が続く疾患です。原因は不明ですがストレスが関わっていると考えられています。
彼女はコロナ禍で在宅業務となり生活環境が大きく変わりました。それまでは外出や運動でリラックスしていたのですがそれが出来なくなったと言います。身長157㎝体重42㎏(BMI:17)というやせ形の方です。
去年の7月ごろ(約1年前)から便秘気味、腹満、吹き出物も気になり始め、さらに腹痛も起こるようになったために、自らネットで検索して複数の病院・医院を受診したそうです。それでも体調が回復せず先のOTC医薬品購入となりました。結局、私のところに来た時には“これでもか!“というくらいの薬を出されており、その時点ではアミティーザ、グーフィス、リンゼス、酸化マグネシウム、ガスコン、モサプリド、ラックビー、ツムラ大建中湯、アルプラゾラム、パキシル、そのたOTCの整腸薬、数種の便秘薬を自分で購入し服用していました。その結果
② 便通は不定(下痢と便秘交互)となり、ガスが発生しお腹がいつもゴロゴロ鳴り、時々吐き気があるという状態でした。
③ ちょうどお盆休みの時期で病院に相談もできないというので、まずは過敏性腸症候群の薬を全部やめて頂きました。下痢が酷いのに腸内の水分を増やしたり、蠕動を促進させる必要はないし、便が出ないのは便秘なのでは無く、十分食べていないためと考えたからです。
一応、腹診も行いました。当薬局は鍼灸治療室を併設していますのでこういうときには便利です。結果、腹力中等度以下、胸脇苦満は無いが季肋部に抵抗はある、心下に軽度の痞え感、胃内停水があり、腹直筋は左右共に臍下まで緊張しています。脈は浮弱、やや数、舌は湿った白苔(舌磨きによってまだら状)という症候から、初回は桂枝加芍薬湯(ケイヒ3.0 シャクヤク6.0 タイソウ3.0 カンゾウ2.0 ショウキョウ1.0)とし1週間、次に食欲が出ないというので前方にニンジン2.0(別包)を加え1週間分、やはり便秘が気になるというのに前方に膠飴20g加え、ニンジンを3.0に増量し2週間分差し上げました。
④ この間、便秘を気にしてか何度か市販の下剤を服用し、そのたびに腹痛を訴えて来られ芍薬甘草湯エキスなどを使いましたが、約1か月の服用で過敏性腸症候群の症状はほぼ改善されました。
結局⑤きちんと食べないと出るものも出ないよ、結果として毎日の排便が無くとも心配することはないと繰り返し説明しました。当然、下剤の具合やら便の形状やら、若い女性に対してかなりあからさまに口にしていた訳ですが、まあ普通に会話として成り立っていました。やはり亀の甲より年の劫で、どうやら年を取ると“人畜無害”と認識されるようです。さて後は体質的な虚証を何とかしなくちゃな、と考えていたところ「良い病院が見つかりました。お世話になりました。」との事。う~ん、私的にはちょっと残念でした。
【解説】
① 過敏性腸症候群は、この文章にあるように原因不明とされていますが、主に、気逆≒衛気の暴走、つまり交感神経優位の状態になっている場合が多いように見うけられます。クローン病にまで陥っていないなら、衛気の暴走を止めるのに、営気を強くすれば良いだけです。営気の根幹は(脾)の陰を補うことです。しかし、吹き出物が出始めていること。各種の西洋医学の化学的薬品を服用しているのに、症状がまったく収まっていないところを鑑みると、症状は悪化していると考えられる。つまり、単なる過敏性腸症候群なら、(脾)(陰)を補い温める、桂枝加芍薬湯で治すことはできたでしょうが、この患者の状態では、もう手遅れになっていることに気づいてほしいものです。
② ガスが発生し、お腹がいつもゴロゴロ鳴り時々吐き気がある、ということは①で述べたように症状は悪化、病は進行してしまい、この状態を放置するとこの患者の人生を変えるほどの病(主に免疫病、不妊症など)を生じる恐れが出てきています。つまり、(脾)(陰)だけでなく(胃)(陰)もダメージを受け始めたということです。
③ 現在服用している薬を全て停止したことは評価できる。少なくとも(脾)(陰)のダメージは、少しでも解消されるので。ここで注意したいのは、“心下に軽度の痞え感、胃内停水があり、腹直筋は左右共に臍下まで緊張しています”のところで、右と左の強弱が必ずあるはずなので、その確認がされていない。また、胆のう、肝臓、ひいては心臓の肥大の有無の確認がなされていない。人迎の脈の状態を見落としている。陽明大腸経、陽明胃経、太陰脾経の状態は少なくとも確認してほしい。
④ 桂枝加芍薬湯を服用していて便秘することの意味は(胃)(陰)に障害が生じたことの証明であることに、なぜ気づかないのか?便秘薬の冷えに対して芍薬甘草湯で処置することの愚かさを痛切に反省してほしい。
【考察】
結論として、病因の根幹がどこにあるか、まったく理解していない。つまり、医者と同じく症状だけを消去する対処療法に終わってしまい、病の本質である(胃)(陰)にダメージがあることを理解しなくてはならない。
思うに、この女性の患者は、死ぬまでいろいろな病名と付き合うことになるが、可哀想にと感じました。
防己黄耆湯について
「漢方、効かせかた(第64回)」から引用
【防己黄耆湯】防已(辛平) 黄耆(甘微寒) 白朮(苦温) 甘草(甘平) 大棗(甘平) 生姜(辛温)
条文を読んでみると
「風湿、脈浮に、身重く、汗出で悪風する者」(金匱要略 痰湿暍病)
「風水、脈浮に、身重く、汗出で悪風する者」(金匱要略 水気病)
「風水、脈浮なるは表に在りと為す、其人或いは頭汗出で表に他病無く、病者但だ下重し、腰より以上は和を為し、腰以下當に腫れて陰に及び、以て屈伸し難きを治す」(金匱要略 水気病附方)
私の条文の解釈です。
・ここでいう風湿、風水の意は、君火(風)の熱が、(胃)(脾)に流れ、痰湿が生じる前に水が停滞したので、脈が浮弱になった。
・君火の熱は、上半身に逃げるので、主に胸部から上、特に顔に汗をかく。その下半身は冷たく感じる。
ここで症例をあげた著者は、次の口伝に基づいて防己黄耆湯を処方している。
「目標」(漢方処方解説 矢数道明 著)
表が虚し、下焦が虚し、腎の障害により起こる諸症を目標とする。
色白で、筋肉軟かく、水ぶとりの体質で、疲れやすく、汗が多く、小便不利で下腹に浮腫をきたし、膝関節の腫痛するものなどを目標とする。中年後の有閑夫人で、太って疲れやすく、身体が重いという人に用いることが多い。脈は多くは浮弱である。
「目標」の先人の解釈を考察すると、腎の障害により浮腫を生じると述べているが、私の上述の解釈から、この腎の問題は㊏剋㊌と㊏が過剰な熱を㊌=(腎)に逃した状態で、腎臓自体の問題が主とならない。つまり、誤っているのです。ここで「漢方、効かせかた 第64回」の著者の症例を見ていくと、
【症例1】43歳女性、162㎝、55㎏
①6月になり湿度がつらい、顔に汗をかく、だるい、むくみ(生理前)、
②下半身の関節痛、足全体特に足先のほうがムズムズする、右手荒れ、ひざの裏に汗疹、疲れやすく
③暑がりでのぼせやすい、足は冷える、手は火照る、小便は1日に10回という。
特に有閑マダムのようなイメージではないが、運動不足タイプ。
④生まれた時から皮膚科の常連ということや、条文のとおりなので防己黄耆湯を2週間処方した。
⑤服用し始め2服目で関節痛が無くなり、足の冷えも楽になり、小便は出る量が増えた。手のかゆみもほぼなくなり順調ということで廃薬。
【解説】
①君火の熱(心臓)が長期間生じたため、心臓が肥大、高血圧傾向にある。
この場合、湿度がつらい、だるい、むくみがあることから、(脾)(陽)の低下があり、(脾)自体にもダメージがあると考えられる。
②下半身の関節痛は典型的な(脾)(陰)及び(胃)(陰)の低下で、右手荒れ、ひざの裏に汗疹があることから、㊏生㊎の流れが悪く、(肺)(陰)が不足していて、おそらく便通にも問題があると考えられる。また、生殖器にも問題があると推察される。
③特に「足は冷える」の症状は、この場合においては顕著な(胃)(陰)の低下の状態を示している。
④生まれた時から皮膚科の常連、また有閑マダムとのことから、糖分・油分を多く摂取してきたため、今に至っては身体を冷やす果物を多く食べることができても、その他の糖分・油分は嫌いになっているのではないかと推測できる。また、皮膚科の常連から(胃)の陰虚は確定である。
⑤防己黄耆湯で表面上の諸症状は改善したようだが、根本的なところが抜けているので、この女性はこれからも他の症状で苦しむだろう、と私は考える。
【考察】
・症例の女性が、免疫又はガンに病巣が進行しないことを祈るばかりである。なぜなら、(胃)(陰)の低下が目立つから。
・この症例の著者が、もっと深く考察してくれること、漢方の根幹の理論を勉強してくれることを期待する。
・患者の口述よりも、もっと具体的な診断をしてほしい。たとえば関節痛といっても、膝が変形しているのか、膝は腫れているのか、どの部分が特に痛みがあるのか、足の指が歪んでいるのか、変形しているのか、足の爪があるのかないのか、巻き爪になっているのか…と、もっと客観的な状態を一つ一つ明らかにして、処方を決定してほしいと願うばかりです。
高血圧
イスクラ冠元顆粒などによる高血圧症の使用例
中医学講師:劉桂平
から引用
〔患者〕女性、52歳、身長155㎝、やや太り気味
〔主訴〕高血圧4~5年ぐらい、血圧は140~160mmHg/90~100mmHg前後
降圧剤を服用すると気持ち悪くなり、西洋薬の副作用が心配なので、漢方と食事療法で改善したい。肩こり、時々頭痛、舌暗胖大、白膩苔。
〔生活習慣〕牛乳やパン、ヨーグルト、肉や卵、魚などの料理が多く、野菜が少ない。
コーヒーは1日2杯、お菓子をよく食べる。アルコール(-)。睡眠は12時頃から6時頃まで。
〔弁証〕気滞血瘀、痰濁阻滞
〔論治〕理気活血、化痰祛濁
〔服薬指導〕
イスクラ冠元顆粒 3包/分3
イスクラ温胆湯エキス顆粒 3包/分3
〔生活指導〕
食事を野菜の多い和食を中心にし、腹八分目でよく噛んで、充分な睡眠をとり、夜11時前に就寝するように、適切な運動を行う。
〔結果〕
1ヶ月後、便通が快適になり、血圧が安定して140/90ぐらい、3ヶ月後は130/80ぐらいで、睡眠も良くなった。
〔考察〕
イスクラ冠元顆粒で理気活血、イスクラ温胆湯エキス顆粒で化痰祛濁をして、食事や睡眠の養生を併用して諸方合わせて瘀血と痰濁を取り除くことにより効果が現れたと考えられる。
【解説】
① 降圧剤を服用すると、気持ち悪くなり、西洋役の副作用が心配…
一般に現代医学の精製された医薬品は、すべてと言っていいほど(胃)(陰)を破壊する傾向にあり、「気持ち悪くなった」ことから、(胃)(陰)が傷ついていると推察される。
② 肩こり、時々頭痛
この二点の事柄は、生じる位置により意味がまったく変化するので、もっと詳細に患者から聞いて具体的に記すべきである。
③ 舌暗胖大、白膩苔
(脾)に湿が滞っていて、(脾)(陽)がかなり低下していると考えられる。なおかつ(脾)(陰)も働きが悪くなっていると考えられる。
④牛乳やパン、ヨーグルト……お菓子をよく食べる
これらの食品はすべて基本的には油分であえることに気が付いてほしい。特にパンやお菓子は大抵バターやマーガリンが多用されている。そのため、湿熱がこもり易く、おそらく②のことがあるので相火=胆の働きが問題をかかえていると想像できる。
⑤〔弁証〕〔論治〕
表面上のことば遊びは、うまく述べていますが、①~④のことを理解してもらえるならば根幹の問題である(胃)(陰)、(脾)(陽)のことは述べられていない。
①食事を野菜の多い和食中心にし…
この患者の場合は、油分を減らすことが中心となるので、たとえ和食であってもマヨネーズやドレッシング等を使用したり、天ぷらなどの揚げ物を食べていたら和食であっても意味をなさない。このことをもっと具体的に指導しなければならないと考える。
②腹八分目でよく噛んで…
腹八分目の意味が理解できているのであろうか。腹八分目とは、よく噛んで(少なくとも30回以上)、そして満腹感が生じたらそれ以上は食べないこと。そうすると1時間ぐらい経過すると必ず空腹感が生じる。これが腹八分目の意味です。そして、たとえ空腹であっても飲食はしないこと。
③適切な運動
これこそもっと具体的に記すべきで、この中医師の力量がわかる。適切とはどの程度か?
④〔結果〕
①~⑧のことから、原因となる(胃)(陰)の改善がされていないので、ふたたび悪化しても、これ以上症状は良くならない、と私は考えます。私に言わせれば、3ヶ月服用しても、この程度の結果なら誤差の範囲と思いますが。
アトピー性皮膚炎
第62回『漢方、効かせ方』から引用
男性 X年現在29歳 167㎝ 50.3㎏
初診はX-9年(20歳、大学生)6月24日:165㎝ 45㎏
主訴:アトピー性皮膚炎、片頭痛
経過:X-9年6月24日初診日:①幼稚園のころからアトピー性皮膚炎があり、アンテベートを1ヶ月に2~3回だったり、2~3ヶ月に1回だったり外用している。上半身、背・肩・腹が赤く、掻いた跡がある。
便通:普通便、時に軟便。②電車など人が多いとストレスとなり腹痛や下痢になる。
小水:4~5回/日。食は細く好き嫌いが多い。③疲れやすい。顔はいつも火照っていて顔からの汗はひどい。冬は湯たんぽがないと眠れない。
①中学1年ころから片頭痛があり脳外科の検査では異常なし。ゾーミックは効果なし。
②閃輝暗点→視野欠損→頭痛となり、吐いたり下痢したり指先が痺れたりする。湿度の高いのは苦手で、⑥又寝不足やストレスの蓄積があると、片頭痛もアトピー性皮膚炎もひどくなり、又⑦花粉症の時期になるとアトピー性皮膚炎はひどくなる。物理や数学が好き。寝つきが悪く夢が多い。
処方:黄耆建中湯(煎じ)、五苓散自家製剤併用とした。片頭痛は閃輝暗点があり藤平健先生に教えていただいた苓桂朮甘湯も考えたが、⑧頭痛がひどく五苓散とした。
【解説】
①一般にステロイド剤の多用は、(脾)(陽)、(脾)(陰)、特に(胃)(陰)にかなりのダメージを与えていることを常に念頭に入れて対処しなければならないし、長期間に及ぶ場合は、発育・成長の失敗(本来あるべき成長が未熟な状態で終わっている)を前提としなければならない。
②緊張すると腹痛・下痢になることから、腹直筋がかなり硬直していると考えられることから、陽明胃経、太陰脾経、衝脈にかなりダメージがあると思われる。
③この症状は、典型的な心火火旺、つまり心臓が肥大傾向にあり、心火の熱(君火)が(脾)(陰)、(胃)(陰)を焼き尽くしているような状態になっている。またステロイド剤の蓄積がかなりある。
④第二成長期にあたり、発育がうまくできなかった証左となる。つまり正しく成長ができていないので骨格が歪んでしまったと推察される。ステロイド剤の多用でなり易い。
⑤病がかなり身体の奥深く進行してしまい、(胃)(陰)の機能が低下して㊏生㊎の流れが滞り始めている。かなり免疫力の低下があると疑う。
⑥心肥大の為、心臓に負担がかかると(心)の特質でかゆみが生じるので悪化していると考えられる。
⑦花粉症になると、おそらく鼻閉となり鼻呼吸ができなくなり、口呼吸となってますます(心)に対して荷重がかかり、かゆみが悪化して皮膚炎がひどくなる、と考えられる。
⑧頭痛がひどく五苓散を処方しているが、五苓散は一般的に利尿薬と考えている人が多いと思うが、実際は五苓散は㊋生㊏により熱が(脾)を冒したために湿が滞った時に用いる漢方薬で、②~⑦を考えると本末転倒である。
アトピー性皮膚炎の方は時に⑨消風散(煎じ)にしたり、荊芥連翹湯(煎じ)にしたりして、皮膚は少し滑らかになった。保湿剤をもらいに行った皮膚科では、カルテを見て以前より皮膚がきれいになったと言ってくれた。又、床屋で首や頭の皮膚がきれいになったと言われた。片頭痛はだんだん減り⑩不眠は酸棗仁湯エキスで良くなった。しかしストレスがかかったり汗で痒くなったりしていた。
両親の仲が悪く、そのためもあってか非常に神経過敏である。サフランの臭いがダメで飲めない。初対面の人と目を見て話せない。漢方の味も、ピンク色の甘さとか。茶色の甘さだとか言って飲めないものがあった。自分で発達障害ではないだろうか?などという。
途中休むこともあったが、⑪X-5年4月頃まで飲み、片頭痛は軽くなり、皮膚も完全ではないが、かなりきれいになった。
【解説】
⑨エキス剤でなく煎じで調合するならば、少なくとも当帰・地黄は除くべき。当帰は温性で、(脾)(陰)を補うので、冷えがある場合は別にして、この場合は病歴が長くステロイドの害もあるので使用すべきではない。また地黄は、おそらく乾地黄と思われるので、濁陰になり易いので使用すべきではない。どうしても使いたいなら鮮地黄を使用すべきである。
⑩酸棗仁は、(心)(陰)を補うので、対処療法としては良いが、心臓の状態を元に戻すことはできない。この場合、心肥大を戻す以外にはない。だからストレスに対して汗とかゆみが生じている。また、(心)が生じる時の汗は、粘性(ベタベタ)があるはず。
⑪片頭痛がまだ完治していないということは、病はますます悪いところで安定した状態になってしまったとなぜ理解できないのか。
X-3年2月12日;久しぶりに来店。4月からIT関連の会社に就職が決まった。
X-4年8~10月、アレッポ石鹸(天然由来の成分でできているため、肌に刺激が少ないことが一番のメリットといわれている)を2週間くらい使用した。⑫両腕・両肩・首が荒れ、赤く乾燥して痒くなった。いつも緊張し、奥歯をかみしめている。⑬いつものように黄耆建中湯(煎じ)に抑肝散加陳皮半夏エキス1p×2併用した。あまり良くならず痒くて眠れないということで、6月から消風散(煎じ)、抑肝散加陳皮半夏エキス1p×2併用とした。
11月まで飲んでかなりきれいになり眠れるようになり中止した。
【解説】
⑫おそらく、陽明大腸経、少陽三焦経が完全にダメージを受け、腸の免疫系にかなりのダメージを残して症状が安定してしまった状態と考えられる。
⑬消風散に効果があったのは間違いないが、消風散の処方中の石膏・牛旁子・知母・蝉退が効いているのであって、当帰・地黄は害はあっても良くはないと心に留めておくべきだ。また、黄耆建中湯、抑肝散加陳皮半夏は論外である。おそらく抑肝散加陳皮半夏を煎じで与えていたら一気に全身が悪化したと想像できる。
X-1年12月3日:⑭牛肉・豚肉を減らし、魚・大豆たんぱくを主にするようにして、いつもの背・肩・腹は完全ではないがかなりきれいになっている。肘の内側が乾燥して痒い。浸出液はない。食べれば食べられるが空腹感がない。当帰飲子(煎じ)とした。
X年1月7日:空腹感を感じるようになり、体全体の皮膚は完全にきれいになった。5月末まで当帰飲子を内服した。⑮6月になって両手の掌側・側面が一部分、時に無性に痒くなり掻くと汁が出る。消風散内服とした。
⑭ ⑮この患者は、脾・胃・胆・小腸・大腸と消化系に大きなダメージを受けているので、食事の基本は消化に時間のかかる油脂を減らすことにある。この治療者は意味がわかっていない。また、食べれば食べられるが空腹感がないことから、最終段階の(胃)(陰)が相当なダメージを受けたと考えられる。6月になって痒くなったことから、心肥大はますます悪化していることが推測される。つまり、6月になり、気候が蒸し暑くなり心拍が増加したことから生じているとなぜわからないのだろうか。
色白でなめらかで、元はこんなにきれいな皮膚だったんだと思う位になった。今までかなり良くなっても⑯何かアトピー性皮膚炎特有の色をしていた。
初めて来てくれた時、この男は将来どうなるんだろう、と私はずいぶん心配した。
複雑な家庭環境、両親の不仲、神経過敏、慢性の片頭痛などがあり、対人関係の不器用さがあり、物理や数学が得意で専攻していて、サヴァン症候群ではないと調べたりしていたからである。しかし時間はかかったが、ステロイド外用なしで、見違えるほどきれいに、そして元気になった。一番の原因は得意なパソコン関連の仕事に就き、自分で給料をもらって自立できたことのように思われる。食事も気を付けるようになり、自分に自信ができたことから、精神的に落ち着き、結果アトピー性皮膚炎も良くなったようである。その都度話を聞き、その時の証に合わせて漢方薬を飲んでもらったことも助けになったように思う。⑰6月頃から暑さと湿度が高くなると消風散が効くようになり、11月~12月寒くなると当帰飲子が効くようになり、同一人物の中で興味深いと思った。頭痛も一年に1~2回軽く起こる位である。
⑮⑰この状態はおそろしいとなぜ理解できないのだろうか。これはステロイド焼けが身体に残っている。おそらく、コロナに感染したり、疲労が重くのしかかってきたりしたら、症状が一気に悪化するだろう。また、水様便が出始めても悪化する兆候となるだろう。
結果的には、処方した本人も完治していなくて、ただ何となく諸症状をおさえていることを自覚しているようだと思われる。この患者の場合、身体に残っているステロイドを除去して、もう一度正しく成長させてやらなければならないと考える。
ただ、私に言わせれば、かなりの年月をかけてこの状態では、患者が可哀想に思えてくる。病の根幹を放置しているようでは、この患者は浮かばれないだろう。
(脾)(陰)、(脾)(陽)及び(胃)(陰)を復活させて完治させてほしいと願うばかりである。
潰瘍性大腸炎
現病歴&症状
半年前より血便が現れ、病院の診察を受けて、潰瘍性大腸炎と診断され、治療を行い、一時的に症状が緩和されたが、また再発し、一進一退で効果が不安定のため、漢方相談を受けるようになった。
症状は粘血便、下痢あるいは血性下痢、腹痛、食欲不振、体重減少、貧血、息切れ、易疲労、睡眠浅く、手足の冷え。舌淡白・やや暗・白膩苔
【弁証論治】
・弁証:脾胃虚弱 大腸湿熱
・治則:健脾益気 清熱化湿
・方剤:イスクラ健脾散エキス顆粒 1回1包 1日3回、馬歯莧 1回1包 1日3回、田七人参 1回1包 1日3回
【養生指導】
(1)温かい和食・煮物を中心にして、腹八分目、よく噛んで。
(2)温野菜を多めに食べる。
(3)遅い時間に食べない。
(4)冷たいもの(アイスクリーム、ヨーグルト)、生もの(刺身、果物)、消化しにくいもの(揚げ物、牛乳及び乳製品、肉)、甘いもの、辛いもの、アルコール、たばこ、コーヒーなどを控えめ。
(5)十分な睡眠やリラックスした精神状態、適切な運動、腹部や体を冷やさない。
【経過】
上記のものを服用して一ヶ月後、血便や腹痛、倦怠感などの症状が徐々に軽くなり、一年継続服用して安定したが、ある日、大量飲酒によって再発、血便や腹痛がひどくなり、これを機にして思い切って半年禁酒して、同じものを継続服用してまた良くなりました。
イスクラ『日本中医薬研究会』より引用
【解説】
① 症状を大まかに分類してみました。
・粘血便、下痢あるいは血性下痢
…君火の熱が㊎を攻撃した時の状態。つまり、㊋剋㊎がかなり強く働いている
・腹痛
…㊋剋㊎、㊏生㊎の流れがかなり悪い
・食欲不振、体重減少
…(脾)(陰)、(脾)(陽)が低下し、(胃)が亢進している。
・貧血
…(胃)が亢進し過ぎているため、交感神経が優位にあり、(腎)(精)じダメージを与えている。
・息切れ・易疲労・睡眠が浅い
…君火がオーバーヒートして㊋自体に熱を持ち始め、症状が徐々に悪化している。
・手足の冷え
…(胃)(陽)が亢進し始めて、(胃)(陰)、(脾)自体がゆっくりとさらに悪化し始めている。
② ①の事柄を考えた時、この弁証論治は正しくないとわかります。
③ ここで言っているのは(1)(2)(3)は(脾)(陰)、(脾)(陽)を戻すための養生法です。
(4)はオーバーヒートしている(胃)(陽)を食べ物によって阻止しようとして、本能的に自らで欲しているのです。つまり、(胃)(陽)のオーバーヒートの熱を冷やしたり、発散して取り除こうとしているのです。(5)は、㊋の熱及び交感神経優位を取り除こうとしているだけです。
腹部や体を冷やさない…これは(胃)(陽)が亢進し過ぎて(胃)(陰)、(脾)(陰)、(脾)(陽)が低下してしまい、衛気の流れ、小陽三焦経が破壊され始めている状態と考えられます。
④ 大量飲酒は湿熱と考えられていますが、この状態の人においてはさらに(胃)(陰)、(脾)(陰)、(脾)(陽)が低下してしまい、(胃)(陽)がさらにオーバーヒートしたと考えられます。
以上のことから、方剤における健脾散(参苓白朮散)、馬歯莧、田七人参の処方はあくまでも標治であり、本治ではないことがわかります。
コロナワクチン接種後の帯状疱疹
コロナ禍になり、新型コロナ感染者やワクチン接種後に帯状疱疹を発症する患者さんが増えてきたとよく耳にするようになりました。
この現象は日本国内だけでなく世界的に起こっており、そのメカニズムは今のところわかっていないようですが、免疫力の低下がヘルペスウイルスの活性化を引き起こしている可能性があるようです。
コロナワクチンの4回目接種後に帯状疱疹にかかり、後遺症に悩んでいた方の症例を紹介させて頂きます。
【症例】68歳 男性 167㎝ 75㎏ 運送業
【主訴】帯状疱疹の痛み、しびれ、その後の蟻走感
【現在の症状】体型はがっちり、食欲はあり、睡眠も問題なし
小便は1日5~6回‘(夜間尿1~2回)
大便は1日3回あるが普通便
暑がりでクーラーを好むが、寒がりで入浴は必ず湯船につかる
口が渇くことが多く、水分はよく飲む、汗はよくかく、性格は神経質
体力には自信があり、生活習慣病も一切ない
コロナワクチン4回目接種後に仕事で遠方への勤務が続き、少し無理をしていると感じていた頃、顔の左側部分に帯状疱疹が発症しました。近医受診し、抗ウイルス薬が処方され、水疱は改善しましたが、痛みやしびれが残り、鎮痛剤、ビタミン剤が処方され服用するもなかなか良くならず漢方相談となりました。
ウチダ和漢薬『漢方、効かせかた』引用
【解説】
① 「コロナワクチン4回目接種後、ヘルペスになり後遺症」について
コロナワクチンだけで(脾)がダメージを受け(胃)の亢進が始まっていることがわかります。
② 排尿、排便の回数がやや多いことから(胃)の興奮=交感神経が優位にあり、副交感神経が低下していることがわかります。さらに、「クーラーを好むが寒がり」ということで、交感神経が優位にはることは間違いありません。
③ 「口が渇くことが多く、水分はよく飲む、汗はよくかく」このことは一般的には虚証でなく実証で、とか色々言われますが、明らかに心(君火)に熱がこもり、何らかの心疾患があると考察されます。
④ 顔の左側部分にヘルペスが発症したことから、厥陰心包経、陽明胃経、衝脈にダメージを受けたことが分かります。
●この治療者は、越婢加朮湯、附子、桂枝茯苓丸、黄耆桂枝五物湯 等が処方されていましたが、最終的には多少の違和感が残り完治していないようです。
①~④から理解できると思いますが、雑にいう標治は改善しているようですが、本治には到っていないようです。
皆さん、これほど恐いことはありません。治療者は、根本を全く理解せず治療しています。こういうことをすると必ず6ヶ月から1年後には再発、若しくはさらに悪化します。最悪の結果、心不全の発作や脳梗塞の重篤な病にならないことを祈るばかりです。
コロナウイルス感染の対処法
<症例>コロナウイルス感染
年齢:31歳 女性 168㎝
経過:
令和4年11/21 コロナ陽性
39℃の高熱が3日間、処方された解熱鎮痛剤服用
11/24 メールにて相談
現状は咽頭痛(+++)水も飲み込めない。非常に辛い。
その他、咳、痰が少し、やや寒気、頭痛
熱は起床時37.5℃程度だが夕方になると38.5℃まで上昇
<判断>
3日経過し、往来感熱があることから柴胡の証とみる。寒気、頭痛の表証もあることから、
・エキス剤でRp. 柴胡桂枝湯 分3 3TD
・桔梗湯 咽頭痛時うがい 12回分
傷寒六七日、発熱、微悪寒、支節煩疼、微嘔、心下支結、外証未去者、柴胡桂枝湯主之。(太陽病下)
11/26
咽頭痛改善、痰↓ ただし咳(++) コンコンと乾いた咳で出ると止まらない。
食欲、便通問題なし
<判断>
食欲があり、痰が少ないことから痰飲(-)、陰虚の咳と考え
・Rp. 麦門冬湯 分4 3TD
大逆上気、咽喉不利、止逆下気者、麦門冬湯主之。(肺痿肺癰咳嗽上気病)
11/29
咳↓ 夜は2~3回出る程度だが睡眠には影響せずしっかり眠れる。大変調子良い。
便通がやや悪化(便がべたべたする)食欲↓
朝、鼻水がトロトロでる 体の重さ(+)
<判断>
麦門冬湯で潤しすぎたか、もしくは胃腸機能低下による痰飲などを考えたが、病状は深くないと判断。胃腸機能低下を考慮し麻黄を避けて
・Rp. 苓甘姜味辛夏仁湯 分3 1TD で処理
水去嘔止、其人形腫者、加杏仁主之。其証応内麻黄、以其人遂痹。若逆而内之者、必厥、所以然者、以其人血虚、麻黄発其陽故也。(痰飲咳嗽病)
仕上げとして食欲低下を考慮し、
Rp. 小建中湯 分3 5TD
修了
虚労裏急、悸、衄、腹中痛、夢失精、四肢痠痛、手足煩熱、咽乾口燥、小建中湯主之。(血痹虚労病)
ウチダ和漢薬『漢方、効かせかた』より引用
【解説】
① 傷寒論、金匱要略にでてくる発熱は、主に君火による発熱です。君火による発熱は、発汗が基本です。
② 咽頭痛、水も飲めない→無理に発汗させてしまったため、心臓に負担をかけてしまい咽頭痛になったことを理解していない。これを往来寒熱と考えていることの未熟さを知ってほしい。まして、うがいなどもってのほか。
③ 痰が少なく、乾いた咳が出ると止まらない。【図1】
これは、㊋剋㊎と熱が㊎を攻め続けたために、㊏生㊎、㊎生㊌の流れが滞り始めた結果、㊏、㊎の精が枯渇し始めているのです。
④ 麦門冬湯で一見、表証は少し改善しているようですが、便通がやや悪化(便がべたべたする)、食欲↓、鼻水がトロトロでる。この事柄で病がますます悪化していることすら治療者は理解できていない。つまり、(脾)(陽)、(脾)(陰)がダメージを受け、病は身体の奥深く進行していることすらわかっていない。
⑤ これほど症状が悪化しているのに、小建中湯で解決できると考えているのでしょうか?本当に怖いことです。
私は何も治療者を批判しているのではないのです。もっと深く勉強に励んでほしいのです。悪意のない善意者であっても無知は罪です。この罪を治療者は自覚して、寸暇を惜しみ「素問」を少しは研究してほしいと願っています。
【図1】